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2009.02.02
はじめに
Euro Car Body はその年に発表された新型車両について、実際に開発に携わったエンジニアが、主にボデーにかかわる設計技術と生産技術について発表、さらに実車の骨格ボデーを前に世界から集まったボデー設計技術者と議論するイベントです。今年で10回目を数えますが、参加社は年々増え、また、当初欧州の自動車メーカーが中心だったプレゼンターも、近年は日本メーカーを加え、非常に国際色豊かで、バラエティーに富む、かつ高い技術レベルの会議となりました。
会議概要は以下のとおりです。
http://www.automotive-circle.com/english/e_konf_carbo08.cfm
- 開催日時;2008年10月21−23日
- 場所;Bad Nauheim(ドイツ)
- 参加者 約530人
- 参加各社及び展示車(発表順、車種名、社名などは主催者記載のとおり)
ボデー設計技術では衝突安全、剛性、NVH、走行安定性、それに空力などの各要件をどのように達成したかについて各車両ごとに発表されましたが、この中でも特に環境及び燃費性能向上と、衝突安全性能に重点がおかれていました。これらを両立するためにより軽く、強度の高い高張力鋼板(ハイテン)の採用が目立ち、特に各社ホワイトボデー(自動車の骨格を形成する主要部品群)のうち、どのくらいがハイテン材料か、という数字とともに、その車両のコンセプトをあらわしていました(PASSAT 81%, INSIGNIA 67%, FIESTA 56%、など)。また、近年注目のホットスタンプ部材も、欧州車を中心に、特に加工精度と高強度を要求されるBピラー周りに採用が進んでいるようです(PASSAT→B-pillar, LAGUNA III→A-pillarなど)。その高強度性、スプリングバックの少なさによる高い加工精度というメリットが、設備コストの高さや生産性の低さ、成形後加工の難しさなどのデメリットをどう補っていくかが今後の課題といえましょう。また、フロント領域は前突の荷重を複数の荷重経路で分担する構造設計(マルチプルロードパス)の採用が増えてきており、前突の更なる性能向上と、Car to Car規格への対応を検討していることをうかがわせました。また、定着してきた感のある歩行者保護対策には、アクティブフードの採用が見られました(C5, XF, XC60など)。
一方、ハイテン化、ホットスタンプの適用、あるいはアルミや複合材を用いたマルチマテリアル化は生産技術、さらにはライフサイクルを通じた再利用性の壁が立ちはだかります。グローバル生産のためには、ハイテン化の使用率をあえて抑える、あるいはホットプレス材の適用のために生産拠点を制約するなど、高性能な車両を低コストで生産するための、高度な設計技術と生産技術との両立について各社の工夫が発表されました。
かたや、ほぼアルミニウム(シート13%、鋳造31%、押出45%)で構成、結合はリベット及びボルトで、CAE技術も空力解析をもっとも強調していた、Ferrariのようにわが道を行く車もありました。もちろん実車前の写真撮影は一番人気でした。
展示された各実車
これらの要件達成において、CAE技術はなくてはならないものになっており、その中でも衝突解析は最も適用が進み、成果をあげた分野といっても過言ではないでしょう。さらに人体モデルの活用(AVENSIS)、当社も従来から重点的に提案している加工硬化の考慮(FIESTA)など、より高度な解析技術の適用も見られました。
プレゼンテーションに加え、実車を前に直接開発担当者同士のディスカッションが行われました。開発現場におけるより実際的な、泥臭い議論も行われ、会社を超えてボデーエンジニアたちが情報交換を行い、苦労と熱意を共有していました。
ホワイトボデーを囲んでのディスカッション
この会議を通して、ボデー設計技術は単に、自動車という工業製品を設計する技術だけなのではなく、その自動車のコンセプトを反映させる手段である、という認識を新たにしました。
ファミリーカー、スポーツカー、ラグジュアリーカー、リーズナブルカーなど各種のコンセプトを、走行性能、衝突安全性、強度などの性能、および生産性や生産体制も考慮したコスト要件に落としこみ、それらをどのように作りこむか。骨格の概念設計や断面設計に始まり、CAEや実験による各性能検討やそれらのすり合わせ、接合技術、加工技術に代表される生産技術の検討など、多くの技術を駆使し、自動車は開発・生産されています。その一翼を担う高度なCAE技術の提案を通し、JSOLは微力ながら貢献を続けていきたいと考えています。