
CAE Technical Library 注目機能紹介 - CAE技術情報ライブラリ
LS-DYNAのIsogeometric Analisys(IGA)利用を支援するNURBS Patch作成ツール「IGA Tool」をご紹介します。IGAは、CADデータの類似フォーマットで解析を実行できることから、Design(CAD)とAnalysis(CAE)の親和性を高める手法として発展と活用が期待されています。産業界で使用される複雑な形状のCADをIGAに適したデータに効率的に変換するツールが、今回ご紹介するIGA Toolです。
IGA Toolの存在意義
IGAでは、CADデータの形状生成で用いられるNURBSとよばれる高次関数を、近似の形状関数としてそのまま使用します。従来の解析手法であるFEMと比較し、メッシュ作成フェーズがなく、CADデータの類似したデータフォーマットで解析が流せるため、設計と解析をつなぐスキームとして期待されています。しかし、実際のところ、設計フェーズで構築されたCADデータを、そのまま解析フェーズで使用することは困難です。それは産業界で使用されるCADデータが有する、次の3つの特徴に起因します。
1.CADデータ品質のエラー
一般的に、CADデータの作成、他ソフトとの連携において、データ品質、いわゆるPDQ(Product Data Quality)が重要視されています。主に自動車業界を中心に、このPDQに関するガイドラインが設けられ、対応したチェック項目に従って不具合箇所を特定し、修正しているのが現状です。
2.複雑な形状を有するSurface群
多くの3次元CADデータは、BREP(Boundary REPresentation)と呼ばれる形状表現手法を採用しています。設計フェーズでは、複雑な形状を表現できるという利点があります。しかし、IGAでは、Surfaceの結合や、トリムSurface等を解析的に捕捉する必要があるため、オリジナルのCADデータを用いて解析を実行することは事実上困難です。
3.コントロールポイントの数と複雑な配置
産業界で使用されているCADデータは、複数のSurfaceで構成され、各Surfaceにおいてコントロールポイント(制御点)が存在します。オリジナルのCADデータでは、ポイント数は膨大であり、かつその配置は非常に複雑です。IGAでは、コントロールポイントが計算自由度となり、これらポイントのピッチ幅がタイムステップを決定する1つの因子となっています。そのため、コントロールポイントの数や配置が、計算コストに大きく影響します。
以上から、LS-DYNAにおけるIGAでは、オリジナルのCADデータから、解析に適したNURBSパッチへの変換が必要となります。
LS-DYNA専用のプリポストプロセッサーであるLS-PrePostにも、NURBSパッチへの変換および修正を行うNURBS Editorと呼ばれる機能が実装されていますが、産業界で使用されている複雑な形状に対する変換には、IGA Toolの使用が適当です。
CADモデルからNURBS Patchへ変換
IGA Toolの機能
IGA Toolは、CADモデルの品質チェックおよび修正を行い、LS-DYNA IGAに適したNURBSパッチを作成します。
1.CADモデルの品質チェックと自動修正
IGAモデル変換の前処理としてCADデータの品質をチェックし、内在するジオメトリエラーの検出を行います。さらに、検出されたエラーの自動修正を行います。この機能により、前項のCADデータ品質のエラーという問題を緩和します。
CADモデルの品質チェックと自動修正
2.クロスフィールドアルゴリズムによる4辺面作成機能
CADデータからNURBSパッチを作成するために、4辺で構成される面(4辺面)に分割する必要があります。IGA Toolでは、クロスフィールドと呼ばれる概念を導入し、対象のCADモデルを4辺面に自動分割するためのアルゴリズムを実装しています。さらに、4辺面化されたモデルに対してコントロールポイントの配置調整が可能です。この機能により、前項で述べた形状の複雑性とコントロールポイントに関する問題を緩和します。
クロスフィールドを活用した4辺面作成
3.LS-DYNAインプットファイルの出力
さらに、IGA Toolを用いることで、対象のNURBSパッチをLS-DYNA解析用インプットファイルとして出力できます。このインプットファイルをLS-PrePostなどのプリソフトに読み込み、パートの定義や境界条件などの設定を行うことでLS-DYNA解析の実行ファイルを作成できます。LS-DYNAにおけるIGAの現状とIGAの実行手順の詳細は、エンジニアレポートで紹介しています。
このように、メッシュ作成が不要となるIGAをLS-DYNAで活用するには、IGA ToolによるNURBSパッチへの変換が有用です。従来のFEMでは必須であった煩雑な作業を効率化することで、コストの削減につながります。
IGA Toolの将来展望
現在リリースされている最新版はIGA Tool Ver2.2です。2019年度にVer3のリリースが予定されています。本セクションでは、Ver3に実装される機能の概要について、ご紹介します。
LS-DYNAで解析可能なIGAモデルは、以下の3つに大別されます。
Type1.クロスフィールドアルゴリズムによる4辺面モデル(Ver2.2にて対応)
上記「IGA Toolの機能」にて説明したクロスフィールドアルゴリズムによるモデル化です。
Type2.インナートリムモデル(Ver3にて対応予定)
Type1のように、複数の4辺面に分割するのではなく、はじめにユーザーがモデルを分割し、その領域ごとに4辺化をするモデル化です。Surface内部のトリム形状は、トリムラインにより解析的に捕捉します。
Type3.アウタートリムモデル
複数のSurfaceを1面でモデル化する手法です。Type2との違いは、必ずしも外形(アウター)ラインが4辺になっていないことです。アウターラインも、Surface内部のトリム形状と同様に、トリムラインにより解析的に捕捉します。
IGAモデルのType
IGA Tool Ver2.2では、Type1のみをサポートしていますが、Ver3にて、Type2によるモデル化が可能となります。
Type1のモデル化の際に採用されている、クロスフィールドアルゴリズムは、自動で4辺面を作成するアルゴリズムです。しかし、対象となるモデルの形状次第では、すべてのパッチを4辺面で構成できなかったり、狭小な幅をもつ4辺面ができてしまったりするケースがあります。その場合、ユーザーが手動で修正をする必要があります。
一方、Type2については、はじめに、ユーザーが適当にモデルを分割する必要がありますが、分割された各領域を4つの頂点を有する面としてモデル化できれば、その領域を1面のNURBSパッチとして変換することが可能です。そのため、Type1に比べ、少ないNURBSパッチ数でのモデル化が可能となり、作業もより効率化されます。
Type3については、4辺化をすることなく、複雑なSurfaceを1面のNURBSパッチでモデル化します。Type1、Type2に比べ、モデル作成工数の低減に大きく貢献するモデル化といえます。ただし、ソルバー側の安定性が十分ではないため、現在LS-DYNAの開発元であるLSTCにて、より安定なスキームの開発、検討を実施しています。
上記のように、IGAの可用性とユーザビリティの向上をめざし、IGA Toolの開発が続けられています。今後も、IGA Toolによるモデル化技術の発展、および、LS-DYNA IGAの更なるブラッシュアップに向け、引き続き精力的に取り組んで参ります。