図-1に実験結果の一部を示す。赤色が振動台の加速度、黒色の線が載せられた架台での加速度である。最大入力加速度が800cm/s2に対し、上に載せられた架台での加速度は200cm/s2 程度以内に低減されていることがわかる。ビルは建築基準では200cm/s2 程度以内なら弾性域で設計されているのでビルとしての資産価値もまもられることになる。
ところで、最近になり長周期地震動がしばしば問題となる。1985年のメキシコ地震の時もそうであった。モーメントマグニチュード8のメキシコ太平洋岸で発生した地震が300km以上離れたメキシコ市で死者約1万人の被害を与えた。地震波の短周期成分は距離減衰により遠くまで伝わらないが、長周期成分はあまり減衰しないため遠くまで伝わる。メキシコ市は、もとは湖だったところに粘土が堆積してできている。大袈裟に言えば、それが長周期の揺れによりタライの中の水のように3分間あまりちゃっぷんちゃっぷんと揺れた。タライの縁では増幅もした。これに運悪く共振したビルが倒壊したわけである。
一般に、長周期地震動による問題は少なくとも二つある。
一つは、超高層ビルの共振である。東北太平洋沖地震(2011)では新宿副都心や臨海地区の超高層ビルはよく揺れているのが映像でもとらえられた。それだけではなく、遠く離れた大阪市南港のWTCビルまでも共振した。大阪湾の厚い軟弱層が関わっている。
もう一つの問題は中低層の免震構造である。1次固有周期を3秒程度に延ばし共振を避けたつもりであったのに、もし3秒周期の地震が3分間も続けば、たとえ遠距離地震といえどあなどれない。少なくとも共振で振幅が想定以上に大きくなることは覚悟しなければならない。ダンパーなどの対策や、隣接壁とのクリアランスなどを少し見直す必要があろう。
幸い、我々の開発している滑りを利用した「置くだけ免震」では、摩擦係数が0.15程度なので遠距離を伝わって到達した値が150ガル(cm/s2)ぐらいでないと滑らないし、又、復元力機構がないため共振により振幅が大きくなることもない。
おっと、ついつい宣伝をしてしまった。ここで欠点も言っておかないと不公平になる。図-1の実験では約30cmほど滑った。実際にはジャッキで元に戻すことになる。なお施工が水平でない場合や、偏心荷重がある場合などを想定した実験なども併せて行っている。
- [1] 例えば James M.Kelly, 'Asseismic base isolation : review and bibliography', Soil Dynamics and Earthquake Engineering, Vol.5.,No.4, (1986) pp.202-216
- [2] H.Nishimura, S.Abe and E.Tachibana,'Dynamic characteristics and response reduction of the metal-touched type of base-isolator', Structural Control and Health Monitoring, Vol.14, No.4,(2007), pp.537-555
- [3] 井川望,米田春美,橘英三郎,楢府龍雄,"すべり免震支承の振動台実験と数値解析による応答低減効果の検証",日本建築学会技術報告集, 第14巻,第28号, (2008), pp.411-416
- [4] 井川望,米田春美,橘英三郎,楢府龍雄,"すべり免震支承の振動台実験と数値解析による応答低減効果の検証(その2)",日本建築学会技術報告集, 第15巻,第31号,(2009), pp.685-690
- [5] 井川望,米田春美,山下仁崇,橘英三郎,楢府龍雄, "すべり免震支承の振動台実験と数値解析による応答低減効果の検証(その3)",日本建築学会技術報告集, 第16巻,第34号,(2010), pp.899-904