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CAE Technical Library 橘サイバー研究室 - CAE技術情報ライブラリ

vol.29エレガントな静定構造・恐ろしい静定部材?

2013年05月30日

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「このあいだ作ってもろた棚なー落ちてもーたでー」
「そんなアホな・・ひょっとして棚に何か載せたんとちゃう?」

・・・これは関西弁でないとおもしろくない。ちょっとした間合いがポイントだ。ところでこの関西弁でいやな記憶もある。戦後、父の転勤で疎開先の徳島から東京に引っ越した。小学1年の時の学芸会の時だ。指導担当の女の先生に私の言葉がへんだと言われ言い直しさせられた。先生の言う通りに言っているつもりだったが、その先生は関西なまりを嗅ぎ取ったようだ。私はどこがへんなのかわからなかった。何度も指導されているうち、とうとうその先生はヒステリーをおこし私をクビにしてしまった。当時の東京で関西弁の匂いは学芸会では許せなかったのであろう。ただし2年生になった頃には茨城や千葉からの転入生を「いなかっぺ」と言えるぐらいに私もとけこんだ。なにしろ、周りは「たけし」のようなワルがごろごろいて、うかうかしては生き残れない子供なりのきびしい世界があった。

いやいや話が最初からそれた。棚の話であるが・・中央に物を載せることにして棚の長さを2倍にするとたわみはどのくらいふえる?
これに即答できる人は1級建築士クラスである。答えは約8倍だ。梁に加わる集中荷重によるたわみは長さの3乗に比例する。こうした「梁のたわみ問題」を最初に言い出したのはガリレオ(1638)だと言われている[1][2]。そしてBernoulli (ベルヌーイ)や Euler(オイラー) らにより梁理論が完成したのは 1750年頃とされている。それには、Navier (ナビエ) の平面保持の仮定(変形後も断面の平面は保持され、しかもそれは曲がったあとの中立軸にも直行する)を前提としている。さらに、その直行性の仮定を緩和してせん断変形も含めたBernoulli-Euler-Timoshenko の梁理論の完成となるともっと後になる。又、梁のネジリ問題は、固定端における軸方向の拘束力による影響といったwarping(そり変形)なども関わることになる。しかし、トルストイの水車小屋の男のように本題の「静定構造」から離れすぎてはいけないので梁の話はこのへんまでとし、次ぎに進む。

京都の芸大で構造力学の講義を引き受けたことがある。JR向日町駅からバスで20分ほどの落ち着いたキャンパスだった。予想とおり受講生のほとんどは女子学生で全国から選び抜かれた未来の芸術家だ。
まず、静定構造だ。単純梁からはじめようと思った。そして黒板に単純梁の図を描いていると、いきなり女子学生から質問がとんできた。

「先生。両側の二つの三角の印は何ですか?」
「これは梁を支えている記号だ」
「へー。・・じゃー横に引いた線は梁なんですね」
「そー」
「その・・真ん中の下向きの矢印はなんですか?」
「これは荷重をあらわしている矢印だ。力はベクトルであり矢印で表すことができる。(いささかムットして)理科でならっただろう?」
「先生、ベクトルって何ですか?私は物理をとっていません」

気軽に引き受けたことへの後悔の黒雲が湧き上がりはじめた。しかし、この質問は至極当然である。さすが芸大の学生だ。「目がしっかりと開いていた」のである。約束ごとは手抜きをせずに丁寧に説明しなければならない。建築の学生なら他にも関連科目があるので自然に理解していくが、芸大での構造力学の講義は絶海の孤島のようにポツンと独立しているからだ。かといって、約束ごとを延々と説明するのも問題だ。聞く側としては眠くなってしまう。ほどほどがよいのだろう。ともあれ、この質問があって以降はなんとかスムーズに進み、後悔の黒雲もしだいに薄らいでいった。途中で質問した勇気ある女子学生に大いに感謝している。

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