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CAE Technical Library 橘サイバー研究室 - CAE技術情報ライブラリ

vol.32金属だって記憶できるんだぞ - 形状記憶合金(SMA)その2 -

2014年4月3日

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図1と図2をニラミながらなんとか辻褄が合うように考えたのが図3である。縦軸を主メモリー軸方向の総ひずみ量とし横軸は温度である。

[図3] SMAカップラーの係数 β11 の温度勾配
[図3] SMAカップラーの係数 β11 の温度勾配

この図3の点線は無拘束状態でのカーブ(図1の点線)から導かれたものを、ざっくりと折れ線で表している。
図中の点A (温度A) から出発しよう。収縮ひずみは0である。温度が上がり As を通過すると収縮ひずみが徐々に増加しはじめる。 点Bにおける βB の温度勾配は図のように点線の勾配で与えられる。さらに温度を上げると接触がはじまり無拘束状態でのカーブからはずれ収縮ひずみの進展速度が遅くなりカーブは「ねて」くる。どの程度「ねる」かは相手の剛性次第だ。そこで次の問題は点Cに達したときの βC の温度勾配をどう考えるかである。図のように水平線を引き、破線と交わった位置での勾配とするのはどうだろうか?このようにすることにより、拘束されている場合はAf を過ぎても βC は0とならずに収縮をつづけることになる。つまり、本来自由であれば収縮できるところまでSMAは何とか到達しようと頑張りつづけるわけである。

こうした大胆な仮定に異論も多いと思われるが、図1や図2もふくめて得られた実験結果をほぼ追従できる準備はできた。
次に、計算例を図4に示す。

[図4] SMAとOリングを併用したカップラーの締め付けと緩和
[図4] SMAとOリングを併用したカップラーの締め付けと緩和

図4はフランジ付きパイプをOリングを介してSMAカップラーで温度を0℃から50℃まで上げて締め付け、さらに温度を40℃まで下げて緩めるプロセスを示したものである。上下対称、軸対称として(a)図の黒塗りの部分だけを解析した。Oリングは締め付けた後にパイプ内部を真空とするためである。又、フランジは、締め付けたことによりパイプとパイプの突合せ面が内側に曲がり込まれないように逆モーメントを与える役割を担う。

(b)図ではOリングが瓢箪のように座屈している。実際の設計では、はじめのクリアランスをもう少し大き目にとる必要があろう。(c)図は小さくてわからないがフランジの効果はよく発揮されていた。ただし、温度を40℃まで下げてSMAカップラーとOリングが離れた時点でも接触応力が0となっていない。その理由として一つは残留応力が考えられる。ほんの少しマクロに見れば水平成分の合応力は打ち消しあっているようにも見える。又、NIKE2Dでは接触面上での節点のずれによる釣り合いは静的等価な力の置換がなされているのでメッシュの粗さによる誤差かもしれない。

(b)図と(c)図は筆者の手作りのソフトで出力されたものである。ここでは必要なかったが陰線処理もまがりなりにできるようにした。(ともかく、出力の画像処理ソフトがないと、FEM解析結果はどうしょうもない)上記お数式の表記は文献[6]にあわせた。

ところで、このOリングといえば、1986年のスペースシャトルのチャレンジャー号爆発事件が有名だ。ゴムのOリングが低温のため柔軟性がなくなりタンクから燃料漏れがおこり、炎上分解したという説が有力である。その後、Oリングは2重から3重に改められたと聞く。文献[3]の発表以来、米国の連邦航空許可局が毎年行っている会議への案内が届くようになった。チャレンジャー号事故の究明に参考になると思われたからかなー。いやいや、多分、自意識過剰、針小棒大ぎみの癖のなせるワザ。どうか眉にツバをお忘れなく。

以上、このコラム欄が始まって以来の長文になってしまった。まあ、サイバー研究室という名前がついているので、数式の二つ三つはお許しいただきたい。

  • [1] "Best American Screen-Plays, First Series/Complete Screenplays", Edited by Sam Thomas, Crown Publishers, 1986, pp.133
  • [2] 「高エネルギー密度核融合炉第1壁・周辺部の交換技術の開発」研究代表者 渡辺健二、昭和61年度科学研究費補助金(試験研究(1))研究成果報告書、1987年3月、p.51
  • [3] E.Tachibana, M.Nishikawa, K.Watanabe, "Finite Element Analysis of Tublar Connection Sealed with O-Ring and Shape Memory Alloy's Coupler", Computational. Mechanics '88 Theorem and Applications, Proc. of the International Conf. on Computational Engineering Science, April 10-14, 1988, (Springer-Verlag) 59.v.1-59.v.4
  • [4] M.Nishikawa, E.Tachibana, K.Watanabe, T.Narikawa, S.Toda, "Quick Replacement of the Fusion Core Parts in a Cassette Compact Toroid Reactor, Fusion Engineering and Design 5, 1988 ,(North-Holland Physic Pub.), pp.401-413
  • [5] 逆に、熱帯地方に持っていくと繋ぎ目がばらばらになり悲惨なことにもなるわけだが。
  • [6] J.O.Hallquist, "NIKE2D-A Vectorized, Implicit, Finite Deformation, Finite Element Cord for Analyzing the Static and Dynamic Response of 2-D Solids", Lawrence Livermore National Laboratory, Report UCID-19677 (1983) ソースコードはJAIS(JSOLの前身)からコピーさせていただいた。念のため、リバモア研究所に在籍していたHallquist さんに1985年3月30日付けの書簡で使用許可願いを問い合わせたところ、折り返し4月10日付けの書簡で許可の返事が届いた。9トラックのマグテープを送ってくれたら直接ソースコードを送くっても良いとのことだった。この頃のNIKE2Dはコメント行も含めて確か5万行ぐらいの荒削りのもので、解析結果には責任を負いません、との注意書きもあった。しかし、その遺伝子はDYNAなどに脈々とつながっている。

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