
CAE Technical Library 橘サイバー研究室 - CAE技術情報ライブラリ
vol.33 スナップスルー(Snap-Through)と非線形計画法(nonlinear programming)
−話せば長いことながら入り口だけでも−
2014年7月2日
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このような挙動をSnap-Through などと呼ばれたりする。では、この解析結果はどうして得たのか。ここで、例の学生の登場となる。
「単位ギリギリの絶妙?のバランスをねらう」
この問題の場合、「全歪エネルギーを最小にするときのX(1), X(2), X(3)を求める」
「多変数関数を最小化する手法」はオペレーションズ・リサーチ(Operations Research もしくはOR)の分野で発達しているので、そのワザを借りることにした。
具体的には非線形計画法における準ニュートン法を用いた。
その手順は以下となる。
X(1), X(2), X(3) からなるベクトルを{x}とし、その変数で表された全歪エネルギーを S{x}とする。
Δを与える。(方針:このΔに対する反力を求める。Δを色々変えて反力を求め図2が得られる)
k=1とする。(kは繰り返しのステップを表す)
変数と同じかずの行と列よりなる正方の単位行列を[]の初期値 とする。
適当に{}を仮定する。おっと、この「適当に」は意外と初心者にはくせもの。
色々あるが、とりあえず、全て0としよう。
10 CONTINUE
次式より{D} を求める。
ここでgrad.(グラデュエント)の記号がでてくる。
びびることはない。差分近似で簡単に計算できる[3]。
[] はこの一連の手順でヘシアンの近似逆行列の役割を果たしBFGS公式の主役となる。
次に、次式の値を最小にするαをきめる。(3点の関数値から決める[4] )
このときのαを用いた
が新しい探索値となる。αの絶対値が十分小さいとき、与えられたΔに対する収斂とみなし、その移動量
より材の伸縮量を計算し反力Rを求める。
そうでない場合には、次のステップへの準備として3種の計算をしておく。
3番目がBFGS公式である。
ニュートン法ならヘシアンの逆行列を使うところであるが準ニュートン法では、このBFGS公式のような近似公式を用いるところがみそ。
一見複雑そうだが、そうでもない。右辺の分母はスカラーで同じ値だから一度の計算ですむ。
あとは対角行列や対称行列とベクトルの積だ。
逆行列の演算回数をザーッと変数の3乗レベルとすればこの公式では高々2乗レベルとなる。これは大きい。(べき乗の怖さは数値解析専門家だけでなく古くから知られている[5])。
ここでk=k+1と置き換えて前の10 CONTINUEに戻る。
図2の実線はこのようにして求めた結果だ。
BFGS公式以外にも色々提案されている[6〜9]。例えばBFGS公式のほかDFP公式、ランク−1公式、Peasonの公式 (図2では記号I〜IV)、MacCormicの公式(記号V)、Powell の公式であり、この解析例ではI〜IV がまあまあよさそうだ。
実は、ここまでは、ほんの入り口にすぎない。ここから先はいずれ又。
とりあえず石を3個ほど静かな池に投げ込んでおこう[10]。
- 力の釣り合い式や変形の適合条件は一体どうなったの?
- 積載荷重を想定した反力が負になるって根本的におかしいのでは?
- 本当にこれでいいの?
- [1] Whittaker, E.T., "A treatise of the Analytical Dynamics of Particles and Rigid Bodies", Third Edition, Cambridge at the University Press, 1927, pp.245-262 では最小作用の原理が述べられている。
- [2] Eizaburo Tachibana, "On application of the quasi-Newton method for structural analysis including the dynamic snap-through problem", Shells, Membranes and Space Frames, Proc. of IASS Symposium, 1986, Elsevier Science Publishers, Vol.3, pp.129-136
- [3] 次の本に書かれているBASICのプログラムをみると、なーんだ関数のグラデュエントってこんな簡単に近似できるのか。目からウロコ。刀根さまさま。刀根薫、"BASIC"、プレイマイコンシリーズー1、培風館、1981、pp.198-207
- [4] これについても[3]の文献で詳しく説明されている。
- [5] 秀吉から好きな褒美をやると言われた曾呂利が、一日目は畳の一枚目に米粒を一粒、二日目は畳の二枚目にその倍の二粒、三日目はその倍の四粒、・・と倍づつ百畳分を所望した。秀吉はなーんだ、と言ったが、100畳目は日本中の米粒でも足りない数になることが分かったという話が伝えられている。
- [6] 今野浩、山下浩、"非線形計画法"、ORライブラリー6、1978、pp.196-216
- [7] Huang H.Y.," Unified approach to quadratically convergent algorithms for function minimization", J.Optimization theory & Appl., 5, 1970, pp.405-423
- [8] Denis J.E., More J.J.,"Qusi-Newton methods, motivation and theory", SIAM Review, 19, 1977, pp.46-89
- [9] Powell G., Simons J., "Improved iteration strategy for nonlinear structure", Int. J. Num. Math. Eng., 17, 1981, pp.1455-1467
- [10] 橘英三郎, "Snap-Through問題に含まれる衝撃荷重的な運動に関するメモ", 日本建築学会近畿支部、構造力学考究録、第7号、1990、pp.43-58 (これは、JR田町駅の近くにある日本建築学会の図書室で申込めば閲覧、複写などができる。ただし、会員以外は入室料300円也が必要。そこまで労力かける値打ちがあるのかと問われると、ウーン・・・、あ、震災がらみの貴重な資料も閲覧できますよ)
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