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CAE Technical Library 吉田弾塑性工学塾 - CAE技術情報ライブラリ

2018.9.18

1.降伏条件の実験研究を始めた頃
塑性力学、材料モデルの研究に魅せられて

【降伏曲面と降伏関数の基礎理論】
 応力は材料に作用する単位面積あたりの力(通常はMPa=106 Pa=N/mm2で表す)ですが、これはFig. 4に示すように、x, y, z軸に対して以下の9個の成分を持ちます。

ここで、応力成分 の添字i, jのiは面の方向、jは力の作用方向を指します。例えば、 は外向き法線方向がx軸方向の面(x面と呼びます)に作用するx方向の単位面積当たりの力(垂直応力[normal stress])となります。 はx面に作用するx方向の単位面積当たりの力です。これは面に対して平行に作用する力で、せん断応力(shear stress)といいます。なお、せん断応力成分は と表示することが多いので、本稿でも今後そのように書きます。なお、 となることも重要な性質です。すなわち、材料に作用する応力成分の内、その6個( )が独立成分になります。

降伏条件(yield criterion)とは材料の応力が作用したときに完全弾性変形から塑性変形を開始する条件のことです。塑性変形を受けた材料の降伏条件(後続降伏条件)のことは追って説明することにして、未変形材(処女材)の降伏条件(初期降伏条件)について考えてみます。例えば単にx軸方向に引張っただけの場合(単軸引張り[uniaxial tension]といいます)の降伏条件は次のように書けます。

ここで、Yは単軸引張り降伏応力(yield stress)です。ところで、単軸引張り試験では、塑性ひずみが0.2%生じた時点の応力値を降伏強さ(yield strength)とすることがJIS規格で決められています。これは本来の降伏強さの意味である降伏開始点(弾性限界)は実験者によってばらつく恐れがあることから、便宜的に塑性ひずみ0.2%応力(0.2%耐力[proof stress])を用いているもので、理論的にはYは弾性限界の応力とすべきでしょう。次に、多軸応力状態(multiaxial stress state)、すなわち色々な応力成分 が組合わさって作用する場合の降伏条件について考えてみましょう。これは一般に次のように書くことができます。

この式は降伏関数(yield function)と言いますが、これを応力空間(あるいは平面)に図示したものが降伏曲面になります。Tresca(1864)は金属材料の降伏は最大せん断応力 によって決まるという条件式を提案しました。すなわち、

ここで、 はそれぞれ最大および最小主応力で、 はせん断降伏応力です。
Von Mises(1913)は次のような有名な降伏条件を提案しています。

  • Fig.5 種々の金属材料の降伏曲面(吉田<sup>[12]</sup>))画像拡大

    Fig.5 種々の金属材料の降伏曲面(吉田[12]))

なお、この式は一般にはミーゼスの降伏条件と呼ばれていますが、これと同じ条件式をフーバー(Huber)が1904年に既にポーランド語で発表していたため、フーバー・ミーゼスの式という場合もあります。この式の意味( が偏差応力の第二不変量に等しいなど)については塑性力学の教科書(例えば、吉田[12])を参照してください。Fig. 5には種々の材料の降伏曲面の実験結果とトレスカとミーゼスの条件式による計算結果を比較したものですが、材料によってはミーゼス条件に近いもの、トレスカ条件に近いものがあることがわかります。

■注釈および参考文献■
  • [1] Yoshida, F., Uemori, T., Fujiwara, K., Elastic-plastic behavior of steel sheets under in-plane cyclic tension-compression at large strain. International Journal of Plasticuty 18, (2002), pp.633-659.
  • [2] Yoshida, F., Uemori, T., A model of large-strain cyclic plasticity describing the Bauschinger effect and workhardening stagnation. International Journal of Plasticity 18, (2002), pp.661-686.
  • [3] Yoshida, F., Uemori, T., 2003. A model of large-strain cyclic plasticity and its application to springback simulation. International. Journal of Mechanical Sciences 45, (2003), pp.1687-1702.
  • [4] 例えば、Barlat, F., Maeda, Y, Chung, K., Yanagawa, M., Brem, J. C., Hayashida, Y., Lege, D. J., Matsui, K., Murtha, S. J., Hattori, S., Becker, R. C. and Makosey, S., Yield function development for aluminum alloy sheets, Journal of Mechanics and Physics of Solids 45, (1997), pp. 1727-1763.
  • [5] Williams, J. F. and Svensson, N. L., Effect of tensile prestrain on the yield locus of 1100-F aluminum, Journal of Strain Analysis 5 (1970), pp. pp. 128-139.
  • [6] Williams, J. F. and Svensson, N. L., Effect of torsion prestrain on the yield locus of 1100-F aluminum, Journal of Strain Analysis 6 (1970), pp. pp. 263-271.
  • [7] Phillips, A. and Tang, J. L., The effect of loading path on the yield surface at elevated temperatures, International Journal of Solids and Structures 8 (1972), pp. 463-474.
  • [8] Shiratori, E., Ikegami, K., Kaneko, K., The influence of the Bauschinger effect on the subsequent yield condition, Bulletin of the JSME 16 (1973), pp. 1482-1490.
  • [9] Shiratori, E., Ikegami, K., Yoshida, F., Kaneko, K. and Koike, S., The Subsequent yield surface after preloading under combined axial load and torsion, Bulletin of the JSME 19 (1976), pp. 877-883.
  • [10] Shiratori, E., Ikegami, K., Yoshida, F., The Subsequent yield surface after proportional preloading of the Tresca-type material, Bulletin of the JSME 19 (1976), pp. 1122-1128.
  • [11] 白鳥英亮・池上晧三・吉田総仁,トレスカ型材料の前負荷後の降伏曲面と応力―ひずみ関係:アルミニウム合金による実験的検討,塑性と加工 16(1975), 1073-1080.
  • [12] 吉田総仁,弾塑性力学の基礎,(1997),共立出版,ISBN4-320-08114-5

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