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CAE Technical Library 吉田弾塑性工学塾 - CAE技術情報ライブラリ

2018.9.18

1.降伏条件の実験研究を始めた頃
- 塑性力学、材料モデルの研究に魅せられて -

私は本年3月末で、37年以上勤務した広島大学を退職しましたが、その前の東京工業大で8年弱助手として働いた期間を入れると45年もの長い間大学で、塑性力学、特に材料モデルの研究をさせてもらいました。その中で、自分では比較的良くできたと思っているもの、中途半端で終わってしまったもの、でももう一回チャレンジしてみたいもの、色々あります。2002年に発表したYoshida-Uemori model [1]-[3] はありがたいことに、JSTAMPをはじめ、多くの板材成形シミュレーションソフトに採用されて、産業界にも貢献できたことは私にとってもうれしいことです。しかし、この論文そのものは既に16年も前に書いたものなので、現在はそれとは違うテーマの研究を主に手掛けていますが、私の興味で一貫しているのは塑性力学と材料モデルです。そこで、これから私の研究歴も含め、この分野の研究で私が面白いと思ったことを色々と書いてゆきたいと思います。合わせて、本稿では塑性力学の基礎項目について解説してゆきます。

まず、今回は、旧い話で恐縮ですが、私がなぜ塑性力学の研究を始めるようになったのかについて少しお話しします。私が東京工業大学に入学したのは1968年で、ちょうど大学紛争の時期とも重なりながら、1971年4月には4年生になり、卒論研究を精密工学研究所の白鳥英亮先生の指導の下ですることになりました。私はもともと材料力学が好きでしたので、白鳥先生の研究室を選んだのですが、そこは工学部とは独立した附置研究所だったので、同級生は誰もおらず、4年生は私ひとりで、あとは修士や博士課程の大学院生と二人の助手の先生、小幡谷洋一先生(福井大学名誉教授)と池上晧三先生(東京工業大学名誉教授)という構成でした。

私に与えられたテーマはアルミニウム合金A2017(当時は17Sと呼んでいました)の予ひずみ後の降伏曲面の実験による決定でした。私の卒業研究の直接指導には当時3学年上(博士課程1年)の金子堅司さん(東京理科大学名誉教授)が当たってくれました。実験は Fig.1 に示すように、丸棒から削り出した薄肉パイプ試験片(平行部100mm、外径23mm、板厚1.5mm)に軸方向引張り・圧縮、内(外)圧とねじりを組合わせて負荷するもので、1972年当時は手動でしたが、これはすぐに油圧サーボに更新したものです。

  • Fig.2 比例負荷におけるアルミニウム合金A2017の降伏曲面と等相当塑性ひずみ曲面画像拡大

    Fig.2 比例負荷におけるアルミニウム合金A2017の降伏曲面と等相当塑性ひずみ曲面(,

ひずみ測定には3方向ひずみゲージを使っていました。この実験ではいくつかのことがわかりました。ひとつは、降伏曲面(初期降伏曲面および比例負荷における等塑性ひずみ曲面)の形状がミーゼス(von Mises)の条件式よりトレスカ(Tresca)の条件式でよく表現できることでした(Fig.2参照)。研究室では、それまで金子さんが黄銅の実験を主に行っており、これはミーゼスの条件に近い材料でしたので、アルミニウム合金についてのこの結果は新鮮でした。なお、この実験結果は、 Barlat [4] がAlcoreに所属していた頃に発表しているアルミニウム板の降伏曲面データの傾向とも合致するものです。本実験のメインテーマは降伏曲面が塑性予ひずみによってどのように変化するかというものです。なお、予ひずみを受けた後の降伏曲面は後続降伏曲面(subsequent yield surface [or locus])と言います。

  • Fig.3 単軸引張り予ひずみを受けたA2017の後続降伏曲面画像拡大

    Fig.3 単軸引張り予ひずみを受けたA2017の後続降伏曲面

この後続降伏曲面が塑性構成式(plastic constitutive equation: 材料の塑性域における応力(増分)とひずみ(増分)の関係式)でどのように重要な役割をはたすかという理論的基礎は追って書かせていただきますが、今回はまず Fig.3 に示す実験結果を見ていただきます。この図から二つのことがよくわかります。ひとつは降伏曲面がバウシンガー効果のため予負荷方向に移動していること、もうひとつは降伏曲面が予負荷方向にとがり、その反対方向は扁平となった「おむすび型」となっていることです。前者は移動硬化モデル(kinematic hardening model)と関係し、後者は降伏曲面ゆがみモデル(distortion model)の根拠となる実験データです。なお、この降伏曲面のkinematic hardeningとdistortionを示し実験データはWilliams and Svensson [5][6] (1970、 1971)、Phillips and Tang [7] (1972)、 白鳥先生の研究グループ [8] (1973)がほぼ同時期に多く発表しています。

私はこのようにして、金属材料の多軸応力下での塑性挙動の実験研究に入ることになりましたが、このときの経験は、卒論研究で読んだ国内外の優れた論文から受けた強い印象も含め、その後の私の研究生活に大きな影響を与えることになりました。なお、ここで紹介した実験結果は、大学卒業後少し経ってから、追加実験結果と降伏曲面ゆがみモデルの初歩的表現も含めて、日本機械学会論文集 [9][10] および日本塑性加工加工学会誌 [11] に投稿して掲載されました。

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