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CAE Technical Library 吉田弾塑性工学塾 - CAE技術情報ライブラリ

2019.7.11

3.高速回転体の低サイクル疲労の研究
- 塑性力学、材料モデルの研究に魅せられて -

私がCyclic Plasticity(繰返し塑性)の研究に携わる契機となった高速回転体の低サイクル疲労の研究についてお話ししたいと思います。この実験は、NiCrMo鋼(SNCM439焼入れ・焼戻し、当時はSNCM8といいました)の円板(直径250mm、内径30mm、板厚5mm)を35000~37800rpmの高速で回転させて、その後回転を停止させるという操作を繰返して、そのときの疲労現象を調べるというものでした。この実験は通常の疲労試験から比べるととてつもなく時間がかかり(1サイクルに15分)、また試験体が破壊したときのエネルギーも膨大です。ですから、実験は真空チャンバーの中に鉛の防護壁を設けて、制御は試験機から離れて防護壁に隠れて行うというある意味で常軌を逸したものでした。

私は、この実験のはじめの2年間は実験ができるようにするための装置の改良に費やしました。最大の問題は、回転数を上昇させるときに軸が振動して(これは振動工学でいう危険速度の問題です)軸を折ってしまうということで、最終的には当初30mmもあった試験体の板厚を5mmとして、試験体の取り付け部分を大幅に設計変更することで、ようやく実験ができるようになりました。同時に、自動制御で試験機を動かすような工夫もしました。このことにより、実験をしながら文献を読んだり、計算をしたりという主に塑性理論の勉強をすることができるようになりました。疲労試験を長時間行うために、夜は試験機の設置してあるプレハブ研究棟の廊下に簡易ベッドを置いて、試験機の音を聞きながら寝る(振動などの異常を察知するため)というようなこともほとんど毎日やっていました(今の大学では安全管理上このようなことは許されませんが、40年前は大学ものどかでした)。なお、当時の東京工大精密工学研究所の研究室は(学部と違い)学生が少なかったため、私の研究テーマはほとんど私だけで(あるいは卒論の学生1名と一緒に)行っていました。このことは、多くのテーマを同時に進める場合には困難がありますが、研究遂行における全てのことが自分の知識や技術の向上につながるという大きなメリットがありました。

低サイクル疲労(Low cycle fatigue)とは塑性疲労とも呼ばれ、繰返し数が少なくて(103~104サイクルくらいで)破壊に至る疲労現象で、このときには応力(またはひずみ)の繰返しでは明瞭な塑性ひずみの繰返しが見られます。繰返し塑性現象とその結果である低サイクル疲労は、ひずみ(制御)繰返しモード(Fig.1(a))と応力(制御)繰返しモード(Fig.1(b))に大別されます。構造物で考えると、塑性繰返しが応力集中部で生じるが、構造物に作用する振動変位が拘束されているような場合にはひずみ(制御)繰返しモードに近く、変位拘束がなくて荷重振幅が与えられるような場合には応力(制御)繰返しモードとなります。実際の構造物では、ひずみ振幅や荷重振幅が一定ではなく、ランダムな場合も多いと思いますが、ここでは最も基本的なひずみ幅(\(\Delta{\large \varepsilon}\))が一定、または最大応力(\({\large \sigma}_{\rm max}\))と最小応力(\({\large \sigma}_{\rm min}\))が一定の場合について考えてみます。

ひずみ繰返しモードでの疲労寿命(\(N_{f}\) サイクル)の予測式として最も有名なものは次式で示すCoffin-Manson則(Coffin[1], Manson[2])です。
\[ {\Delta {\large \varepsilon}}_{p}・N^\alpha_{f} = {C}\hspace{10em}(1) \] ここで、\(\Delta {\large \varepsilon}_{p}\)は繰返し塑性ひずみ範囲、\(C\)、\(\alpha\)は材料定数です。\(C\)は引張り試験で得られる破断ひずみを\({\large \varepsilon}_{f}\)とすると、多くの材料で\({\large \varepsilon}_{f}/2\)<\(C\)<\({\large \varepsilon}_{f}\)であり、\(\alpha\)は材料にほとんど依存せずに\({\large \alpha}=0.5~0.6\)となることが知られています。

  • Fig.2 高速回転体の中心孔付近に発生する塑性域(模式図)画像拡大

    Fig.2 高速回転体の中心孔付近に発生する塑性域(模式図)

  • Fig.3 高速回転体の繰返し発停に伴う中心孔径の増加の実験結果(:孔径増加量,:繰返しサイクル数,それぞれの最高回転数は図に記載)画像拡大

    Fig.3 高速回転体の繰返し発停に伴う中心孔径の増加の実験結果(\(\Delta d\):孔径増加量,\(N\):繰返しサイクル数,それぞれの最高回転数は図に記載)

一方、応力繰返しモードの場合の特徴は、応力の繰返しに伴い平均応力(\(=({\large \sigma}_{\rm max}+{\large \sigma}_{\rm min})/2\))の方向にひずみが累積してゆくことにより、最終破断に至ることです。この繰返しに伴うひずみ累積はラチェット変形(ratcheting)またはcyclic creepといいます。巨視的な塑性変形が見られない応力繰り返しにおける高サイクル疲労(high cycle fatigue)での議論が実用的にはS-N曲線、Paris則に代表される疲労き裂進展が中心なのと比べ、低サイクル疲労には塑性疲労ならではの特徴があります。

高速回転体の疲労試験は典型的な応力繰返し型で、円板試験片の中心孔付近が塑性変形し(Fig.2の模式図参照)が回転の発進・停止の繰返しとともに徐々に大きくなり、最終的に破断するモードでした。Fig.3は、初期に30mmだった円板の中心孔の径の繰返し数に伴う変化(\(\Delta d\))の実験結果を示したものです。最高回転数が高いほど急速に孔径が速く広がっていることがわかります。これはラチェットひずみが最大応力が大きいほど大きくなる現象に対応しています。余談になりますが、実験では中心孔が広がると軸と円板の取り付け部にガタがでてきます。それを補正するため、孔が少し広がるたびにそれに合わせた黄銅ブッシュを入れていました。その加工は、学校工場の旋盤で自分でやっていましたので、旋盤を扱う技術の訓練にもなりました。


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