
CAE Technical Library エンジニアレポート - CAE技術情報ライブラリ
「充放電時の発熱特性を予測する解析モデルの開発」をテーマにお届けしている「ゼロからはじめるバッテリーシミュレーション」の第5回です。本稿では、第3回で構築した解析モデルに、第4回での試験結果を反映して構造の変形を予測可能なモデルを開発するとともに、充電による熱膨張を与えた結果を試験結果と比較して解析条件・結果を検証します。
充電による膨張予測モデル
解析手法としては、「Ansys LS-DYNA®」を用いた熱電気構造連成解析を実施します。
機械特性は、集電箔、セパレータは引張試験、合材層は圧縮試験の反力から同定し、ソリッド要素でモデル化します。
図1. 充電による膨張予測の解析モデル
初期形状は充電率0%の室温状態の膨らみを形状的にモデル化します。
充電特性については等価回路モデル[4]を用い、充電による膨張モデルには充電率依存の膨張係数として、断面SEM観察で得られた値を膨張率に変換して入力します。
図2:充電による膨張予測モデル
充電による膨張解析結果
電極合材層(赤:負極、橙:正極合材層)に充電率依存の膨張率を入力し、解析を行ったところ、解析結果においては0.26 mmの膨張となりました。
第4回の表1のとおり、最大最小の差がかなり大きな状態から得た平均値を使用したにもかかわらず、3次元形状計測装置で実測した結果は、電池の中央付近では、0.31 mmの膨張となっており、良い一致が見られます(図3)。
図3:充電による膨張解析結果
充放電と熱による膨張予測モデル
続いて充電率0%から100%、室温から40℃の状態での膨張量予測モデルを作成します。
図1のモデルに熱膨張として、熱膨張係数と蒸気圧相当の膨張係数を入力します。
初期状態は図2と同様に0%、室温状態の膨らみを形状的に再現しています。
図4:充放電と熱による膨張予測の解析モデル
図5:充放電と熱による膨張予測モデル
充放電と熱による膨張解析結果
図6が解析結果です。ケース表面とセル内部の膨張量を示しています。セルとケースそれぞれ中央がもっとも膨らんでいることがわかります。
右上のグラフは厚さで、中央が膨らむ様子を捉えることができており、右下の変形量については、実験側がノギスで測定しているためバラツキはあるものの、変形量としては比較的良い一致が見られます。
図6:充電と熱による膨張解析結果
まとめ
- 参考文献
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- [1] F. Badin et al., Modelling of On-board Energy Storage System ageing. The French SIMSTOCK research network, EVS 24, The International Battery, Hybrid and Fuel Cell Electric Vehicle Symposium & Exhibition, Stavanger (Norway), May 2009.
- [2] V. V. Viswanathan et al., "Effect of entropy change of lithium intercalation in cathodes and anodes on Li-ion battery thermal management", Journal of Power Sources 195 (2010) 3720-3729
- [3] LIVERMORE SOFTWARE TECHNOLOGY (LST), AN ANSYS COMPANY, “LS-DYNA® KEYWORD USER'S MANUAL VOLUME II Material Models”, LS-DYNA R13, 09/27/21
- [4] 天野 慎一 ら, 「車載用リチウムイオン電池の発熱挙動解析とそのシミュレーションによるモデル化の検討」, 第62回電池討論会(2021)