
[解析事例] フォノン分散を利用した剛性マトリクスの算出
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材料の弾性的性質は、剛性マトリクスにより完全に記述することができます。第一原理計算を利用して得られたフォノン分散曲線から剛性マトリクスの各要素を求めることができます。 本事例では、立方晶であるSi/Diamond/Cu単結晶の剛性マトリクスの解析例をご紹介します。
Siは、図1に示すようにダイヤモンド構造をもつ立方晶構造であり、その剛性マトリクスは以下で与えれます。立方晶の対称性から、独立した要素は、\(C_{11}\),\(C_{12}\),\(C_{44}\)の3つとなります。SIESTAモデラを利用して、これらの要素を求めます。
図1. Siのダイヤモンド構造
立方晶の剛性マトリクス
SIESTAモデラを用いて、Siのフォノン分散曲線を算出しました(図2)。Siはユニットセル内の原子数が2であることから、3本の音響モードと3本の光学モードがあります。
Siの結晶構造は、ダイヤモンド構造を有した立方晶であり、分散曲線から結晶の方位ごとに異なる分散特性を示します。ここではΓ点からX点方向である(1,0,0)方向とΓ点からL点方向である(1,1,1)方向に伸びる音響モードの分散特性に着目します。音響モードの分散特性は、Γ点近傍の長波長領域では線形性を示し、この傾きが音速を与えます。
図2. Siのフォノン分散曲線
図3. 領域@とAの分散曲線
図中の破線はΓ点近傍の各伝搬方向への音速をあらわし、添え字L/Tは縦波(Longitudinal)/横波(Transverse)をあらわす
(1,0,0)方向に伝搬する音波は1本の縦波と縮退した2本の横波から構成され、それぞれの音速と剛性マトリクスは以下の関係で与えられます。この結果から\(C_{11}\)と\(C_{44}\)が得られます。さらに得られた結果を用いて(1,1,1)方向に伝搬する音波に着目することで、\(C_{12}\)が得られます。
本事例では、SIESTAモデラのフォノン解析機能により求められた図1内の領域@とAの音響モード対して、三次の最小二乗法により近似曲線を構成してΓ点での傾き(音速)を求めました。求められた音速から下記の式に従って剛性マトリクスを求めています。
(1,0,0)/(1,1,1)方向の音速と剛性マトリクスの関係
各矢印は偏波方向をあらわし、赤矢印が縦波、緑矢印が横波をあらわす。ρはSiの重量密度をあらわす
解析で得られた剛性マトリクスの各要素と文献値(C.Kittel,固体物理学入門 カッコ内赤字)と比較した結果を表1に示します。
表1 剛性マトリクスの文献値との比較結果
剛性マトリクス | Si[GPa] | Diamond[GPa] | Cu[GPa] |
---|---|---|---|
\(C_{11}\) | 169(166) | 1088(1076) | 175(176.2) |
\(C_{12}\) | 47.6(63.9) | 238(125) | 99.9(124.9) |
\(C_{44}\) | 88.8(79.6) | 546(576) | 67.9(81.8) |
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