
[解析事例] リチウムイオン電池のグラファイト負極の膨化
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リチウムイオン電池の負極に使用される炭素材料は、黒鉛層間物質と呼ばれる層状炭素にリチウムを挿入した化合物を利用します。充電により正極であるLiCoO2からLiイオンを脱離させ、層状炭素にLiイオンを挿入することで、黒鉛層間物質であるLiC6が生成されます。この過程は可逆過程ですが、Liイオンの挿入により電極の体積が膨張または機械特性の変化を生じることが予想されます。
この様子を第一原理計算エンジンであるSIESTAにより解析を行い、評価を行いました。図1に緩和解析後のLiイオンが完全脱離したと仮定したときのグラファイトのみのモデル図(左)とLiC6のモデル図(右)を示しました。緩和解析後の格子定数と体積変化の結果を表1に示します。
図1 緩和後のグラファイトモデル(左)とLiC6モデル(右)
表1の結果から、グラファイトの面間距離を基準にとると、LiC6ではc軸方向に7.5%の伸長が見られ、体積では10%の増加が確認されました。これは、c軸方向だけでなく、ab面内方向にも2.3%増加していることになります。
両モデルの弾性スティフネスについて、歪みを加えた解析から求めた結果を表2に示します。C33を除いて、LiC6はグラファイトに比べると全体的に弾性率が低下しています。 C33については、グラファイトはLiC6の60%程度となっています。グラフィトの層間結合は、van der Waals力によるものですが、 LiC6では、Liの挿入による弱いイオン結合がc軸方向に発生していると考えられます。
次に両者の部分状態密度を比較した結果を図2に示します。両者のフェルミ準位を比較すると、グラファイトに比べてLiC6では、Liイオン挿入による単位セルあたりの電子数の増加からフェルミ準位が押し上げられていることが分かります。 LiC6のフェルミ準位がグラフィトよりも大きな状態密度の位置にあることから、LiC6はグラファイトに比べて金属的な性質を帯びていることが分かりました。
表1 グラファイトとLiC6の格子定数と体積の比較
面間距離(Å) | 面間比距離 | 比体積 | |
---|---|---|---|
グラファイト | 3.48 | - | - |
LiC6 | 3.74 | 1.075 | 1.10 |
表2 グラファイトとLiC6の弾性スティフネス
グラファイト(GPa) | LiC6(GPa) | |
---|---|---|
C11 | 1030.8 | 908.6 |
C22 | 1030.8 | 908.6 |
C33 | 38.7 | 60.5 |
C12 | 168.1 | 143.1 |
C44 | -3.6 | 11.2 |
C55 | -3.6 | 11.2 |
C66 | 500.6 | 442.1 |
図2 緩和後のグラファイトモデル(左)とLiC6モデル(右)の部分状態密度の比較
赤線はフェルミ準位、LiC6モデルではそれぞれの元素ごとの寄与度で表示
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