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[解析事例] コバルト酸リチウムの基底状態と弾性率の解析

量子化学・DFT
力学・粘性・粘弾性
マテリアルサイエンス

SIESTAによるLDA+U法を利用した相関の強い系における基底状態の同定

コバルト酸リチウムは、図1 に示すように、インターカーレート構造を持つリチウムイオン電池の正極材料として広く利用されています。

式(1)において、充電時には反応が左から右へ進み、放電時には反応が右から左へ進みます。
上記における取りうる x の値は 0<x<0.5(x=0.5で構造転移)であり、x の値に応じて電子状態や弾性特性が大きく変化することが知られています。
本事例では、放電状態 x=0 におけるコバルト酸リチウム LiCoO2 の基底状態と弾性定数について解析結果を紹介します。

 

図1. LiCoO<sub>2</sub> のインターカーレート結晶図1. LiCoO2 のインターカーレート結晶

 

図2 に示す部分状態密度の結果から、多くの酸化物遷移金属に見られるように、フェルミ エネルギー近くの酸素の2p軌道とコバルトの3d軌道が大きく寄与し、エネルギー ギャップを形成しています。このエネルギーギャップは、以前の実験から約2.1 ∼ 2.7eV ([1,2,3,4]) であると推定されています。コバルトの3d軌道における電子の局在性を表現するには、電子相関による電子の局在を適切に表現できるLDA+U法の適用が不可欠です。今回の解析では、エネルギーギャップが約2.4eVとなるようにハバードのU(=2.3eV)をLDA+U法により設定しました。

Li1-xCoO2 の基底状態は、x=0 のときは、非磁性状態を採るとされていますが、本事例では検証のため、コバルトに磁化のない状態として、非磁性状態を設定したケースと初期状態に反強磁性状態(図3)を指定したケースの二通りの形状最適化解析(緩和解析)を実施して、フェルミエネルギー近傍の状態密度を比較しました。

図2.  LiCoO<sub>2</sub> の部分状態密度フェルミエネルギー近傍は Co の d軌道と O の p軌道の寄与から構成される。図2. LiCoO2 の部分状態密度 フェルミエネルギー近傍は Co の d軌道と O の p軌道の寄与から構成される。

図3. Co の初期磁化状態黄色矢印は磁化方向のイメージ図3. Co の初期磁化状態 黄色矢印は磁化方向のイメージ

図4 に両者を比較した解析結果を示します。いずれも数値誤差の範囲で一致していることが分かります。これは、初期状態として反強磁性状態を指定した解析において、収束計算の過程で非磁性状態に収束することを示しています。このことから、x=0 における基底状態は非磁性であることが分かります。

図5 にこの状態における体積弾性率を計算した結果を示します。体積弾性率の計算では、上記で得られた最適化形状を中心に各辺のセル長を最大1%圧縮または伸長した際のエネルギー変化を弾性エネルギーの変化として、その2回微分から体積弾性率を算出しています。解析結果から体積弾性率は、184.73GPa(Voigt)であり、文献[5] におけるTableIIのVASPによる結果である177.16GPa(Voigt)にほぼ一致した結果が得られました。

図4. 状態密の比較 DENSITY_NM(フェルミエネルギー-7.9919eV):Co に非磁性状態を設定した結果 DENSITY_AFM(フェルミエネルギー-7.9921eV):Coに初期状態として反強磁性状態を競ってした時の結果 ※フェルミエネルギーはグラフ上では差が見えないため、赤線のみで示しています図4. 状態密の比較
DENSITY_NM(フェルミエネルギー-7.9919eV):Co に非磁性状態を設定した結果
DENSITY_AFM(フェルミエネルギー-7.9921eV):Coに初期状態として反強磁性状態を競ってした時の結果
※フェルミエネルギーはグラフ上では差が見えないため、赤線のみで示しています

図5. 圧縮または膨張時のエネルギーの変化と体積弾性率 体積弾性率は184.73GPa(評価法はVoigtに相当)図5. 圧縮または膨張時のエネルギーの変化と体積弾性率
体積弾性率は184.73GPa(評価法はVoigtに相当)

  • [1]J. van Elp, J. L. Wieland, H. Eskes, P. Kuiper, and G. A. Sawatzky. Phys. Rev. B, 44: 6090-6103, 1991.
  • [2]K. Kushida and K. Kuriyama. Solid State Commun., 123: 349-352, 2002.
  • [3]J. Rosolen and F. Decker. Electroanal. Chem., 501:253-259, 2001.
  • [4]D. Ensling, A. Thissen, S. Laubach, P. C. Schmidt, and W. Jaegermann. Phys. Rev. B, 82: 195431-1-16, 2010.
  • [5]Linmin Wu and Jing Zhang JAP 118: 225101 , 2015.

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