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事例インタビュー:新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 歯科矯正学分野

歯科矯正医療への数値シミュレーション活用

臨床の人間がやるからこそ意味がある

新潟大学大学院の医歯学総合研究科では、矯正で歯に起る力やその影響をCAEで予測し、研究されています。シミュレーション活用の経緯や、現在の研究テーマについてお聞きました。

歯科矯正医療への数値シミュレーション活用

新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 歯科矯正学分野 助教
丹原 惇 先生

Q01 数値シミュレーションを医療に活かそうとお考えになられたのは
いつごろからでしょうか。

矯正治療で、2、3ヶ月しないと判らない「小さな変化」の積み重ねが、短期間で予測が可能。丹原惇先生 矯正治療で2、3ヶ月しないと判らない「小さな変化」
の積み重ねが短期間で予測が可能

丹原先生 : シミュレーションを検討し始めたのは学位研究にさかのぼります。歯並びと噛み合わせを治す矯正歯科治療を始める時は、噛み合わせのずれの原因を調べるのですが、土台となる骨に不調和があり、土台から治療しないといけないケースがあります。このように一般的な矯正器具だけではなく、手術を併用した矯正治療のことを外科的矯正治療と呼びます。学位研究で手術後の噛み 合わせの経過を見ていたところ治療成果は、食事をする際に「もぐもぐ動かす筋肉」である顎の周囲の筋肉の動きに大きく影響するのではないかと考えるようになりました。

矯正治療と力
学位論文では、患者さんから得られたデータだけを見ていました。しかし、データを見ていると一定の傾向は出るのですが、予測しようとすると「ちから」、特に咀嚼筋という「噛む力を生み出す筋肉」の影響が無視できなくなりました。さらに深く掘り下げた研究をする為には、力の変化だけを見るのではなく、力をよく分析する必要があると考え、「噛む力」を測ってみました。筋電図というもので、筋肉の活動をデータで示せるのですが、筋肉だけ見ていても、よくわかりませんし、「噛む力」だけ見ていても、なぜそういう結果が出るかわかりませんでした。 そこで、「顎の骨の形」と「噛み合わせの力」の両方を3次元で見られるものを探して、見つかったのが数値シミュレーションでした。矯正治療と力は、切っても切り離せない関係にあります。実際の矯正歯科治療では、歯に力を加えて、骨に力が伝達され、生体反応として、骨の改造が起こります。日々、診察や治療をしていると、この生体反応と力の関係がワンセットになっていることが多く、この関係を調べることができれば、今までわからなかったこともわかるようになると思い、数値シミュレーションについて取り組むようになりました。

Q02 数値シミュレーションを始めるにあたり、ご苦労された点はありますか。

数値シミュレーション

丹原先生 : 右も左もわからなかったので、どうやって始めたら良いのか自分で考えました。工学博士でも、工学部を出たわけでもなく、歯科医なので。アメリカでの研究期間をきっかけに勉強を一から独学で始めました。最初は古い2Dの線形解析の事例なども調べましたが、コンピュータの進歩によって過去に困難だった解析もできるようになってくるのですね。今は、今まで見えなかったことが見えるようになってきたので、何をやっても面白いです。

Q03 どのような点にメリットを感じられておりますか。

歯根膜を含めた顎の3Dモデル 歯根膜を含めた顎の3Dモデル

丹原先生 : 矯正している最中の歯は引っ張ってもすぐに動きません。月に1回通院していただいて、治療結果を見るのですが、それでも1ミリぐらいしか動いていません。そうすると、本当に効率的に治療が進んでいるのか、2、3ヶ月してみないとわからず、この治療方針で良いはずだと思っていても、力がうまく伝わって、思ったように歯が矯正されているのがわかるのは、始めて3ヶ月ぐらいしてからです。時間が経過してから、「思ったように動かないな」とか「これはうまく進んでいるな」というのがわかるのですが、すぐには分かりません。その2、3ヶ月の小さな変化の積み重ねを、数値シミュレーションで予測できるようになりました。すぐその場で視覚的にわかりますから、日々診察をしている僕からするとそれだけで意味があります。「実際にどれくらい動くか」、「どれぐらい力がかかっているか」ということ以上に、「ここに力を加えるとこうなる」「こっちがダメならこっちから力を加えたらどうなるか」というのを試すことも出来るようになりました。

JSOL : 経過を見ていくには時間がかかりますし、そもそも人体で試すことはできませんね。

丹原先生 : 生体反応について研究するには、いわゆる動物実験に頼らざるを得ません。猿が大きさも形も人間に似ているので良いのですが、なかなか最近は難しくなっています。大体はネズミですね。哺乳類はほとんど、遺伝子の構造が同じなので、ネズミに起こることが人間に起こることは予測できます。しかし、力は別物です。物理量として、ネズミの歯に力を与えると、生体反応として、歯が動くのですが、「ちから」は、大きさや構造の違いにより、伝播が異なります。ネズミの歯は人間よりもずっと小さいですから。

教育ツールとしても利用
視覚化できるというのが数値シミュレーションの最大のメリットですが、視覚化は、教育にも役立ちます。診察の時に、矯正歯科治療のことを初めてご説明する患者さんや、大学院生に説明するときにも思いますが、矯正歯科治療で歯がどれくらい動いているかわからず戸惑います。数値シミュレーションの結果を一緒に見ながら、視覚的に、歯を引っ張る方法や動く方法を見ることができると、その場でディスカッションできますので、教育ツールにもなります。理論で説明しても、なかなかわかりづらいこともありますし、目で見るのが一番わかりやすい。毎日、学生といっしょに患者さんを診療できるなら良いのですが、それは難しいですし、シミュレーションツールを使って、どんどん歯に与える力やねじれなどを一緒に見ることができるのは嬉しいです。事前に現象を理解した上で、診療できると、診療の重要性はさらに高くなります。

Q04 最近の研究事例をご紹介いただけますか。

噛み合わせの応力解析 噛み合わせの応力解析

丹原先生 : これは学生がモデル化してくれた事例なのですが、手術後の顎にかかる力の分布を見ています。主に下顎に大きな力が加わっているのがおわかりになると思います。この計算では、下顎にしか筋肉をつけていないのですが、噛み合わせを介して上の歯も影響を受けているようです。将来的には、患者さんに状態を説明するデータとして見せられると嬉しいですね。

スケーリングをかけた歯の3D造形モデル

生体反応と力の関係
最近は、基礎研究分野への応用を考えております。こちらは、先ほどお話したネズミの歯の事例です。本当に人間とは構造が違います。サイズは3mmくらいなので、基礎研究でも「ちから」については、ほとんど調べられていません。昔から引っ張る研究はされており、人間の歯と同じように動くと想定されているのですが、実際に数値シミュレーションを実施すると、これまで考えられてきた動きとは少し異なることがわかってきました。最近は、生体と力の関係は注目されています。培養している細胞に力を加えただけで、全然違う細胞になり、力を受けている環境自体が細胞の成長を決めているという話もありますが、世界的に見ても、特に歯の移動に関して応力解析による力の分布と組織変化に関する研究はあまり行われていないようです。

最近の研究事例 最近の研究事例

Q05 今後の展望や研究テーマを教えていただけますか。

丹原先生 : 将来的には工学部と連携したいと思います。しかし、工学部と同じ専門的なソフトウェアを使い、どんどん工学的な分野に入っていき過ぎると、臨床が取り残されてしまう可能性もあります。厳密な数値結果を追及していくのは大事なことですが、臨床から離れ過ぎてしまうと、臨床から得られる恩恵やフィードバックが少なくなってしまいます。工学的な知識は多くありませんが、医学の分野で臨床の人間が数値シミュレーションに関わることに意味があるのではないかと思います。新潟大学でも産学連携や医工連携を行っておりますが、両者が一方だけに任せず、それぞれ両方の分野に入っていく気構えがないと連携は成立しないと言われています。研究では、やりたいことがたくさんありますが、今後は矯正治療に特化した力の加え方のパターン化や、術後の予測、患者さんの歯並びが悪くなった原因にもアプローチしていきたいと考えています。

丹原 惇 先生

新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 歯科矯正学分野 助教
丹原 惇 先生

【ご略歴】
  • 2007年 新潟大学 歯学部 卒業
  • 2008年 新潟大学 医歯学総合病院 臨床研修歯科医 修了
  • 2012年 新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 口腔生命科学専攻 博士課程修了
  • 2012年 University of Connecticut Health Center, Visiting Research Scholar
  • 2014年 新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 歯科矯正学分野 助教
事例インタビュー協力
新潟大学
大学院 医歯学総合研究科 歯科矯正学分野

所在地:〒951-8514
新潟県新潟市中央区学校町通2番町5274番地
連絡先:025-223-6161(代表)
公式サイト:http://www.niigata-u.ac.jp/
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