[解析事例] 光学特性評価
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分子構造と複屈折の関係を分子シミュレーションで評価
目的と手法
光は物質中を透過すると物質中の電子を振動させ誘起電場を生じさせます。光はこの誘起電場と相互作用することによって屈折します。物質内を透過するときの光の速度と、真空中での光の速度との比が屈折率です。そして、方向によって屈折率が異なる物質中を光が透過すると、振動面の向きによってその進む速度が異なります。これが複屈折です。
この複屈折現象はコンパクトディスク、プラスチックレンズ、光学フィルムなどの光学材料に悪影響を及ぼします。高分子は、不規則な状態(アモルファス状態)では方向性が無いため、光にとっても均一な媒体であり複屈折は現れません。ところが溶融状態での射出成形等を行うと、ポリマー分子が配向します。配向状態では、配向方向に偏光した直線偏光に対する屈折率と、配向方向に直交する方向に偏光した直線偏光に対する屈折率とが異なり複屈折が生じます(配向複屈折)。
複屈折を示す物質中を光が透過すると、互いに垂直な振動方向を持つ2つの光の速度が異なるため、結像点がずれて結像性能が低下します。そのため、高分子をコンパクトディスクの基板材料や光学フィルムなど光学材料に用いる際には、高分子材料の光学特性、とりわけ高分子鎖の配向によって生じる複屈折(配向複屈折)の制御が重要となります。
ここでは、分子動力学エンジンCOGNACを用いて、高分子の一軸伸張計算を行い配向複屈折の算出を行いました。計算は、負の複屈折を示すことが知られているポリスチレンおよび、配向時に高い複屈折を示すことが知られているポリカーボネートについて実施しました。
解析結果
伸張したポリマーの構造を見るとどちらのポリマーも延伸方向(z軸方向)に伸びていることがわかります。またポリスチレンの場合はベンゼン環平面がz軸に垂直に配向する傾向が見られます。一方、ポリカーボネートでは、ベンゼン環平面がz軸に平行に配向する傾向が見られます。ベンゼン環は動きやすいπ電子を含むため、環平面方向の屈折率が高く、環平面に垂直な方向の屈折率は小さくなると考えられています。そのため、ベンゼン環平面が延伸方向に垂直になるポリスチレンでは負の配向複屈折を示し、ベンゼン環平面が延伸方向に平行になるポリカーボネートでは正の配向複屈折を示すと考えられます。
図3はPC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PCとPSのブレンド系、及びPMMA(ポリメタクリル酸メチル)のセル延伸比に対する配向複屈折を示しています。PCでは正の値、 PSでは負の値を示し、PMMAでは0に近い値が得られました。これらの傾向は、実験結果を再現していると言えます。
また、PCとPSが相溶したブレンド系では、0に近い値が得られており、正の複屈折と負の複屈折を有するポリマーどうしが相溶することで複屈折を低減できることがわかります。
次に下に示すPC側鎖部分の構造を変えた3種類の誘導体を用いて、配向複屈折を評価しました。計算結果を図5に示しています。 側鎖にベンゼン環のある誘導体1は、複屈折値 が小さくなる傾向を示しています。
- ●参考文献
- [1] 宮崎, 東川, 増渕, 成形加工'05, W-312, pp267-268, (2005)
- [2] 岩清水,大久保,小沢,君塚, 成形加工シンポジア'06,C-201,pp107-108,(2006)
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