[解析事例] 機械学習による沸点、屈折率、比誘電率の推算
- データサイエンス
- 熱
- 光学・電気・磁気
- マテリアルサイエンス
- 事例提供
- 和歌山県工業技術センター
機械学習による物性予測モデルの作成、転移学習およびシミュレーションとの連携事例
J-OCTA機械学習機能(MI-Suite)を使用して代表的な熱的物性である沸点の他、屈折率、比誘電率の物性予測モデルを構築したユーザー事例です[1-4]。レンズなどに用いられる樹脂光学材料として重要な物性の1つである屈折率の事例では転移学習を用いてケイ素系化合物の予測精度を向上させています。またセンサーなど電子回路への利用から樹脂の電気的な性質が注目されていますが、ここでは電波の伝搬速度などに影響する比誘電率について、化学構造からの記述子だけではなく、第一原理計算の計算結果を説明変数に追加することで予測モデルを改良しています。
1.沸点1)
化合物にとって代表的な熱的特性である沸点について文献などから870件のデータを収集し、SMILES形式の化学構造と併せてまとめたデータをグラフコンボリュージョンネットワーク(GCN)の方法で学習しました。その結果、相関性のよい学習モデルが得られました。図1に実験値と予測値の相関を示します。トレーニングデータだけでなく、テストデータにおいても良好な結果を示しています。次に、新たに予測したい化合物を入力として与えた場合の出力である予測値を実測値と比較しました。ここでは2種の化合物に対しての結果を示しますが、ずれの少ない結果が得られています。
図1. 沸点についての機械学習モデルの結果
図2. 新たな化合物についての予測値と実測値の比較
2.屈折率2)
文献から658件の屈折率のデータを収集したものを、沸点のときと同様の手順で学習モデルを作成しました。その結果、様々な官能基を有する炭化水素系化合物において良好な予測結果が得られるモデルを作成することができました(図3)。しかしながらケイ素を含む化合物の場合には実測値との差が大きい結果となりました。そこで、新たに28件のケイ素系化合物のデータを追加して転移学習を使ってモデルの改善を行いました(図4)。転移学習のメリットは既存のモデルを有効活用し、少量の追加モデルで学習モデルを改善できること、そして計算コストの面でもメリットがあります。転移学習前のモデルでは実測値と0.05程度の差があったものが、転移学習の結果、良好な予測結果が得られるようになりました。
図3. 初期作成モデルでの結果
図4. 転移学習の結果
転移学習はケイ素系化合物に対してのみ実施
図5. ケイ素系化合物についての予測値と実測値の比較
3.ポリイミドの比誘電率3)
ポリイミドは電子回路基板などに用いられており、高周波領域の利用に伴い、低誘電率の材料が要望されています。ここでは975件のポリイミドのデータ4)に対して機械学習を実施しています。このデータには化学構造と比誘電率の値だけでなく、第一原理計算の結果が含まれています。2D記述子であるMorganFPを説明変数として勾配ブースティング(XGBoost)法を用いた場合では、あまりよい相関のモデルとはなりませんでした。そこでMorganFPに加えて第一原理計算の結果を説明変数に含めて学習することにより、図7に示すように、よりよい相関関係を示す良好な結果が得られました。
図6. ポリイミドの典型的な化合物例
図7. 比誘電率の機械学習モデルの結果
- *参考文献
-
- 1) https://www.wakayama-kg.jp/docs/keisankagaku-jirei-12.pdf
- 2) https://www.wakayama-kg.jp/docs/keisankagaku-jirei-16.pdf, https://www.wakayama-kg.jp/docs/keisankagaku-jirei-17.pdf
- 3) J-OCTA特別講演会 「マテリアルズインフォマティクスによる材料開発のご紹介」 〜 機械学習による予測モデル作成と逆解析による分子構造の予測 〜 講演資料(和歌山県工業技術センター)
- 4) データ駆動型材料設計技術利用推進コンソーシアム 電子部品材料DPF
事例一覧
-
- タイヤの耐摩耗性の向上
- COSMO法による物性推算
- VSOP-PSによる繊維配向材のシミュレーション
- 粗視化モデルによる脂質膜の解析
- 機械学習による沸点、屈折率、比誘電率の推算
- ナノトライボロジー(アブレシブ摩耗、ナノ加工)
- コバルト酸リチウムの基底状態と弾性率の解析(SIESTA事例ページへ)
- MD-GANによる固体電池内のLiイオン拡散解析
- リバースマッピングによるアモルファス構造の作成
- 電池電極の成形プロセス(カレンダリング)における圧力と空隙率の計算
- 粗視化分子動力学を用いた複屈折の解析
- 高分子膜の相分離プロセスシミュレーション
- 機械学習によるχパラメータの推定
- 水への溶解性評価
- フィラー樹脂複合材料の熱伝導率計算
- VSOP-PSによる繊維構造への樹脂含浸プロセス計算
- mol-inferを用いたQSPRの逆解析
- FMO-DPDを用いた高分子電解質の相分離構造
- FMO-DPDを用いた脂質膜とベシクルの形成
- カルサイト(方解石)の複屈折と光吸収(SIESTA事例ページへ)
- リチウムイオン電池のシミュレーション(SIESTA事例ページへ)
- 懸濁液の粘度の評価
- 量子補正を適用した固体の定積比熱の評価
- MD-GANを用いた長時間の分子運動の予測
- ポリマーの誘電緩和
- 金属錯体の吸収スペクトル(SIESTA事例ページへ)
- ゼオライトとガス分子の相互作用(SIESTA事例ページへ)
- 蒸着膜のシミュレーション
- 機械学習QSPRとマテリアルズ・インフォマティクス
- シミュレーション結果を用いた粘弾性マスターカーブの作成
- DPDを用いた粘弾性のシミュレーション
- 表面の再構成(SIESTA事例ページへ)
- フォノン分散を利用した剛性マトリクスの算出(SIESTA事例ページへ)
- Steered MDによるポリペプチドの自由エネルギー変化の解析
- 金属の電子比熱解析(SIESTA事例ページへ)
- 格子比熱の解析(SIESTA事例ページへ)
- J-OCTAによる蓄熱材の評価
- MDおよびMO/DFTを用いた比誘電率の評価
- 溶解度係数の算出
- 機械特性評価(SIESTA事例ページへ)
- 結晶の熱膨張(SIESTA事例ページへ)
- ゼオライトへのガス吸着
- GHz周波数領域における水の誘電分散(2)
- 反応のエネルギー変化(SIESTA事例ページへ)
- GHz周波数領域における水の誘電分散(1)
- 固体表面への分子の吸着エネルギー(SIESTA事例ページへ)
- 活性化エネルギーを用いたモンテカルロ判定によるエポキシ樹脂の架橋反応
- 樹脂 複屈折のためのマルチスケールシミュレーション
- 顔料の表面エネルギー(SIESTA事例ページへ)
- スラリー塗工プロセス
- 金属表面と分子の相互作用
- フィラー充填ゴムの繰り返し伸長
- 界面特性を考慮したCFRTPの破壊挙動の解析(Digimat事例ページへ)
- グラフェンシート添加によるCFRTPのマトリクス熱伝導特性改質(Digimat事例ページへ)
- 非平衡MDによる熱伝導率の計算
- ゴム材料のレオロジーシミュレーション
- 架橋フェノール樹脂の物性評価
- エポキシ樹脂架橋反応のシミュレーションからのガラス転移温度評価
- 電池用電解液の計算
- カーボンナノチューブの分散構造と非線形構造解析
- 粗視化ポテンシャルの評価
- DPDによる溶媒蒸発シミュレーション
- ガラス状態ポリマーの一軸伸長とクレーズ形成
- 高分子-固体界面の摩擦
- MDによる粘度の評価
- 相図からのχパラメータ推算
- 高分子-固体界面の剥離
- 気体の溶解係数と自由体積
- QSPRによる物性値の推算
- レオロジー特性
- 熱硬化性樹脂の架橋構造
- MDによる比誘電率の評価
- 複合材料の非線形力学特性(LS-DYNAとの連携)
- DPDによる界面張力の評価
- MDによる溶解度パラメータの評価
- DPDによる液滴のずり変形
- MDによる界面張力の評価
- 体積弾性率評価
- 界面活性剤の影響評価
- 燃料電池の高分子電解質膜解析
- 一軸伸張解析
- 光学特性評価
- ガラス転移温度評価
- ガス拡散解析
- ガス透過解析
- 架橋構造材料の特性評価
- コンポジット材料の特性解析
- ※記載されている製品およびサービスの名称は、それぞれの所有者の商標または登録商標です。