[解析事例]水への溶解性評価
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自由エネルギー摂動法による溶媒和自由エネルギーの評価
目的と手法
溶質が溶媒にどの程度溶けるかを定量化した物理量として溶解度が挙げられます。溶解度はマクロなスケールで測定される物理量ですが、溶解現象についてミクロな分子スケールの立場から考える場合には、溶媒和自由エネルギーを評価することがあります。溶媒和自由エネルギーは、溶質が真空中に存在する状態と、溶媒中に存在する状態との自由エネルギー差です。溶媒和自由エネルギーは分子動力学法の手法のうち、自由エネルギー摂動法(Free Energy Perturbation, FEP)を適用することで評価できます。
図1. 溶媒和自由エネルギーを評価する際の操作過程
溶質が、真空中と溶媒中に存在している場合の2状態のみのエネルギー差で溶媒和自由エネルギーを評価すると直感的に考えられます。しかし、エネルギーをサンプリングする際の誤差の問題のため、実際には2状態の間に中間状態を挿入し、溶質分子を”消去”していくことで、より穏やかな熱力学的過程を実現します。
図1 のように、溶質を真空中から消去する過程における自由エネルギーと、溶質を溶媒中から消去する過程における自由エネルギー
の差
=
-
が溶媒和自由エネルギー
として評価されます。
分子動力学ソフト GENESIS[1][2] には FEP を実行する機能が備わっています。本事例では GENESIS を用いて5つの溶質(メタノール、エタノール、2-ニトロアニリン、アスピリン、カフェイン)について、水に対しての溶媒和自由エネルギー を評価しました。力場として溶質には GAFF を、水には OPC3 モデルを適用しました。
結果
図2 に GENESIS を用いて計算した結果と、文献[3] に示されている実験値とを比較したグラフを示しました。計算結果と実験値は比較的よい一致を示しています。
薬剤候補の選定や化粧品の設計などにおいて、成分の水への溶解性は重要な性質です。J-OCTA の GENESIS モデラーは溶媒和自由エネルギーを評価するための機能を備えており、水への溶解性について高精度な評価を可能にします。
図2. 各溶質の溶媒和自由エネルギーを計算値と実験値で比較
- *参考文献
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- [1] C. Kobayashi, J. Jung, Y. Matsunaga, T. Mori, T. Ando, K. Tamura, M. Kamiya, and Y. Sugita, J. Compute. Chem. 38, 2193-2206 (2017). https://doi.org/10.1002/jcc.24874
- [2] J. Jung, T. Mori, C. Kobayashi, Y. Matsunaga, T. Yoda, M. Feig, and Y. Sugita, WIREs Comput. Mol. Sci., 5, 310-323 (2015). https://doi.org/10.1002/wcms.1220
- [3] D. L. Mobley, J. P. Guthrie,J. Comput. Aided Mol. Des.28, 711-720 (2014). https://doi.org/10.1007/s10822-014-9747-x
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