[解析事例] 高分子膜の相分離プロセスシミュレーション
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平均場法を用いてNIPS(非溶媒誘起相分離法)のプロセスを評価
高分子膜の製造プロセスにおいて、溶媒蒸発や相分離などが重要となります。相互作用や初期状態などが膜内部の構造に及ぼす影響を評価するため、シミュレーション技術が適用されています。J-OCTA や OCTA の過去の事例では DSA(Directed Self-Assembly)[1] や電極のスラリー塗工[2]、スピンコーティング[3] などをターゲットにして、DPD(散逸粒子動力学)や粗視化MD、平均場法が適用されました。
NIPS(非溶媒誘起相分離法)は微細な多孔膜を製造する技術です。最近、いくつかのシミュレーションの研究成果が発表されています。流体力学的効果[4]、DPD[5]、SCFTを含むマルチスケール計算[6]、ポリマー成分のガラス化[7,8]、粘弾性の効果[9]、ブロック共重合体[10] など、詳細は各文献をご参照ください。
ここでは MUFFIN に含まれる平均場法のダイナミクス計算を用いた、最もシンプルな2次元の適用例を紹介します。Flory Huggins の自由エネルギーモデルに基づいた計算を実施しており、文献[4][6] を参考にパラメータ設定をしています。図1に示すように領域の上半分に非溶媒(non-solvent)を設定し、下半分にはポリマー、溶媒(solvent)、非溶媒をあらかじめ混合した膜を設定します。ダイナミクス計算を始めると下側の膜に非溶媒が浸透し、逆に膜内の溶媒が上側に拡散していきます。ポリマーは溶媒には溶けますが、非溶媒には溶けないため、時間が経つと相分離が生じます。
このような計算を基本にして、各文献で議論されているような効果を含めていくことが可能です。
図1. NIPSプロセスを考慮した高分子膜内の相分離の時間発展
緑色と青色の領域はそれぞれポリマーと非溶媒の成分を表す
図2に3次元モデルでの計算結果を示します。先述の参考文献[8]などにならい、各成分の運動(移動度)に濃度依存性を与えて、特にポリマー成分についてはガラス化(転移)を模擬しています。
膜(スキン層)表面に穴が開いており、実材料に近い挙動が見られます。
図2. 各成分の運動の濃度依存性、ポリマー成分のガラス化を考慮したNIPSプロセスの時間発展(3次元モデル)
黄色の領域はポリマー成分を表す
- *参考文献
-
- [1] https://www.jsol-cae.com//product/material/jocta/cases/caseA26/
- [2] https://www.jsol-cae.com//product/material/jocta/cases/caseA36/
- [3] https://octa.jp/jp/components/muffin/
- [4] Soft Matter,13, 3013, (2017)
- [5] J. Membrane Sci., 599, 117826, (2020)
- [6] https://unit.aist.go.jp/cd-fmat/ja/c-dmd/ja/freport/contents/fr220118_3-07.pdf
- [7] ACS Macro Lett., 9, 1617-1624, (2020)
- [8] J. Membrane Sci., 619, 118779, (2021)
- [9] J. Chem. Phys., 154, 104903, (2021)
- [10] ACS Appl. Mater. Interfaces, (2023) https://doi.org/10.1021/acsami.3c03126
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