[解析事例] MD-GANによる固体電池内のLiイオン拡散解析
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第一原理MDデータを入力とした深層生成モデルによる長時間データの生成
分子動力学(MD)は原子レベルの解析に有効である一方で、計算コストが高いという課題があります。特に第一原理MD(Ab initio MD, AIMD)ではその傾向が顕著です。並列化によって空間スケールの拡大は容易ですが、時間スケールの拡大が依然困難です。MD-GAN[1,2,3]は複数の短時間データを学習し長時間データを生成することで、長時間データを直接計算するよりも計算コストを大幅に削減できます。これは時間方向の並列化とみることができます。
本事例では、AIMDで計算された固体内のLiイオン拡散(図1)をMD-GANに学習させ、長期の時系列データを生成した例を紹介します。
図1. 固体内のリチウムイオンの軌跡
MD-GANの概要を図2に示します。
入力データの作成(feature extraction)では、MDデータから分子内の注目する粒子を抽出します。
MD-GANは入力データ内の128レコードの規則を学習します。レコード間の時間間隔はstep skipで決まり、一度に学習する時系列の長さは 128 * step skipとなります。Step skipを小さくするほど同じ入力データから多くのサンプルをとることができます。(図3)
図2. MD-GANの概要
図3. step skipとサンプル数の関係
本事例では、MDデータとして全固体電解質の材料ともなるLiZr2(PO4)3のデータ(trajectory)を3つ計算しました。MD-GANではstep skipを2、total stepを25000としました。
表に計算条件の詳細を示します。
入力データ内のLi-ion(input particles)の数は12×3であるのに対し、生成されるデータ内のLi-ion(Generated particles)の数は8192となります。
MDとMD-GANそれぞれで平均二乗変位(MSD)、座標変位を計算し比較しました。
図4にMDデータとMD-GANで生成した時系列データにおける各Liイオンのz座標の時間変位を示します。MD、MD-GANの両者でLiイオンがランダムウォークしている様子が確認できます。
図5にMDデータとMD-GANのMSDを図示しました。灰色の領域が学習した時系列データの長さを示しています。時間スケールの小さい非線形領域から、学習した時系列データよりも大きい領域まで一致しており、高精度に時系列データが生成できています。
表. MD、MD-GANそれぞれの計算条件
MD simulation conditions
Solver | AIMD with SIESTA[4] |
---|---|
Total steps | 10000 |
Delta t | 4fs |
Temperature | 1773K |
Number of trajectories | 3 |
MD-GAN conditions
SStep skip | 2 |
---|---|
Feature extraction | Li ion |
Extracted particles | 12 |
Input particles | 12×3 |
Generated particles | 8192 |
Machine | Computation time | |
---|---|---|
MD | CPU (Intel(R) Xeon(R) Gold 6226R CPU @ 2.90GHz) | 30 days |
MD-GAN | GPU (NVIDIA Quadro T1000) | 28 hours |
図4. (a)MDデータと(b)MD-GANで生成した時系列データ内のLiイオンのz座標変位
図5. MDデータとMD-GANにおけるMSDの比較
- *参考文献
-
- [1] Endo, K. et al., Proceedings of the AAAI Conference on Artificial Intelligence, 32, 2192 (2018).
- [2] Kawada, R. et al., Journal of Chemical Information and Modeling, 63, 76-86(2022).
- [3] Kawada, R. et al., Soft Matter, 18, 8446-8455(2022).
- [4] Soler, J. M. et al., J. Phys. Condens. Matter, 14, 2745 (2002).
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