[解析事例] Martini3モデルによるナフィオン膜の計算
- 粗視化MD
- 界面・相分離・粒子分散性
- マテリアルサイエンス
汎用的な粗視化力場を用いたモデリング
MD計算は材料特性を予測する有用な手法であり、材料開発のために広く利用されています。ただし高分子鎖の緩和や相分離といった遅いタイムスケールの現象を扱う場合、全原子モデルでは計算コストが高くなります。そこで粗視化モデリングを利用することで計算を効率的に実施できます。
本事例では燃料電池などに用いられる高分子電解質膜(ナフィオン膜)の計算のために汎用的な粗視化力場であるMartini3力場[1,2]を用いました。
ナフィオンは図1に示すモデル(n=9, m=20, M=26924g/mol)を作成しました。シミュレーションセルにはナフィオン20分子と水5000粒子を配置しました。これを全原子モデルに換算すると92440原子に相当しますが、粗視化モデルでの粒子数は10600と少ないため計算コストが低減されます。また Martini3力場を用いれば適切なセグメント分割によって力場パラメータをデータベースから取得してモデリング工程も効率化することができます。初期状態ではナフィオン分子をランダムに配置し、短時間のNVT計算による緩和後、350Kで1μsのNPT計算を実施しました。動画1にNPT計算中のアニメーションを示します。水相とナフィオンが分離してイオン交換に適した膜構造を形成する様子が確認できます。
この計算ではWindows上のGROMACSを使用し、4CPUを用いて約15時間で計算が完了しました。
図2にはスルホン基の位置を可視化した図を示します。スルホン基(黄色の粒子)は水との界面領域に多く存在することがわかります。図3にさらに大きなモデル(ナフィオン160分子、水24000粒子、総粒子数68800)での計算結果を示しました。この規模のモデルでは複雑な水のチャネルが形成されているのが確認できます。
図1. Martini3によるナフィオンのモデリング。緑の〇が1つの粗視化粒子に対応。
図2. ナフィオン主鎖の体積分率0.5の等値面と分子鎖の描画。
スルホン酸基に相当する粒子を黄色の球で表示。
図3.(左)ナフィオンのMartini3モデル(68800粒子系)。セルの一辺は18nm。
(右)水の体積分率0.5の等値面。
- *参考文献
-
- [1] P. C. T. Souza et al., Nature Methods, 18, 382 (2021)
- [2] E. Hemmasi, et al., J. Phys. Chem. B, 127, 10624 (2023)
事例一覧
-
- Martini3モデルによるナフィオン膜の計算
- 機械学習によるσプロファイルを記述子とした物性推算
- 液膜蒸発乾燥シミュレーション
- タイヤの耐摩耗性の向上
- COSMO法による物性推算
- VSOP-PSによる繊維配向材のシミュレーション
- 粗視化モデルによる脂質膜の解析
- 機械学習による沸点、屈折率、比誘電率の推算
- ナノトライボロジー(アブレシブ摩耗、ナノ加工)
- コバルト酸リチウムの基底状態と弾性率の解析(SIESTA事例ページへ)
- MD-GANによる固体電池内のLiイオン拡散解析
- リバースマッピングによるアモルファス構造の作成
- 電池電極の成形プロセス(カレンダリング)における圧力と空隙率の計算
- 粗視化分子動力学を用いた複屈折の解析
- 高分子膜の相分離プロセスシミュレーション
- 機械学習によるχパラメータの推定
- 水への溶解性評価
- フィラー樹脂複合材料の熱伝導率計算
- VSOP-PSによる繊維構造への樹脂含浸プロセス計算
- mol-inferを用いたQSPRの逆解析
- FMO-DPDを用いた高分子電解質の相分離構造
- FMO-DPDを用いた脂質膜とベシクルの形成
- カルサイト(方解石)の複屈折と光吸収(SIESTA事例ページへ)
- リチウムイオン電池のシミュレーション(SIESTA事例ページへ)
- 懸濁液の粘度の評価
- 量子補正を適用した固体の定積比熱の評価
- MD-GANを用いた長時間の分子運動の予測
- ポリマーの誘電緩和
- 金属錯体の吸収スペクトル(SIESTA事例ページへ)
- ゼオライトとガス分子の相互作用(SIESTA事例ページへ)
- 蒸着膜のシミュレーション
- 機械学習QSPRとマテリアルズ・インフォマティクス
- シミュレーション結果を用いた粘弾性マスターカーブの作成
- DPDを用いた粘弾性のシミュレーション
- 表面の再構成(SIESTA事例ページへ)
- フォノン分散を利用した剛性マトリクスの算出(SIESTA事例ページへ)
- Steered MDによるポリペプチドの自由エネルギー変化の解析
- 金属の電子比熱解析(SIESTA事例ページへ)
- 格子比熱の解析(SIESTA事例ページへ)
- J-OCTAによる蓄熱材の評価
- MDおよびMO/DFTを用いた比誘電率の評価
- 溶解度係数の算出
- 機械特性評価(SIESTA事例ページへ)
- 結晶の熱膨張(SIESTA事例ページへ)
- ゼオライトへのガス吸着
- GHz周波数領域における水の誘電分散(2)
- 反応のエネルギー変化(SIESTA事例ページへ)
- GHz周波数領域における水の誘電分散(1)
- 固体表面への分子の吸着エネルギー(SIESTA事例ページへ)
- 活性化エネルギーを用いたモンテカルロ判定によるエポキシ樹脂の架橋反応
- 樹脂 複屈折のためのマルチスケールシミュレーション
- 顔料の表面エネルギー(SIESTA事例ページへ)
- スラリー塗工プロセス
- 金属表面と分子の相互作用
- フィラー充填ゴムの繰り返し伸長
- 界面特性を考慮したCFRTPの破壊挙動の解析(Digimat事例ページへ)
- グラフェンシート添加によるCFRTPのマトリクス熱伝導特性改質(Digimat事例ページへ)
- 非平衡MDによる熱伝導率の計算
- ゴム材料のレオロジーシミュレーション
- 架橋フェノール樹脂の物性評価
- エポキシ樹脂架橋反応のシミュレーションからのガラス転移温度評価
- 電池用電解液の計算
- カーボンナノチューブの分散構造と非線形構造解析
- 粗視化ポテンシャルの評価
- DPDによる溶媒蒸発シミュレーション
- ガラス状態ポリマーの一軸伸長とクレーズ形成
- 高分子-固体界面の摩擦
- MDによる粘度の評価
- 相図からのχパラメータ推算
- 高分子-固体界面の剥離
- 気体の溶解係数と自由体積
- QSPRによる物性値の推算
- レオロジー特性
- 熱硬化性樹脂の架橋構造
- MDによる比誘電率の評価
- 複合材料の非線形力学特性(LS-DYNAとの連携)
- DPDによる界面張力の評価
- MDによる溶解度パラメータの評価
- DPDによる液滴のずり変形
- MDによる界面張力の評価
- 体積弾性率評価
- 界面活性剤の影響評価
- 燃料電池の高分子電解質膜解析
- 一軸伸張解析
- 光学特性評価
- ガラス転移温度評価
- ガス拡散解析
- ガス透過解析
- 架橋構造材料の特性評価
- コンポジット材料の特性解析
- ※記載されている製品およびサービスの名称は、それぞれの所有者の商標または登録商標です。