お問い合わせ

[解析事例] 機械学習ポテンシャルを用いた格子熱伝導率計算

量子化学・DFT
マテリアルサイエンス

フォノン計算に基づく結晶の熱伝導率の解析

近年、半導体の微細化と高集積化が進む中で、安全性や省エネルギー性の観点からデバイスの熱制御をすることが求められています。本事例では熱伝導性の解析に関して、機械学習ポテンシャルに基づくフォノン解析による方法を紹介します。
固体結晶において、熱のキャリアはフォノンと電子です。特に半導体・絶縁体においてはフォノンが支配的であり、フォノンによる熱伝導率は格子熱伝導率と呼ばれます。固体結晶においては、原子間ポテンシャルから算出できる原子間力定数を用いて物質固有のフォノン特性が計算でき、緩和時間近似に基づいたボルツマン輸送方程式から、フォノンのモード依存の固有振動数\((ω_{s,k})\)、緩和時間\((τ_{s,k})\)を用いて熱伝導率の評価ができます。

ここで、\(V\)はユニットセルの体積、\(N_{k}\) は波数メッシュの数、\(s\)はフォノン分枝、 \(k\)は波数ベクトル、 \(\hbar\)はディラック定数、\(Τ\)は温度、\(f^{BE}(ω_{s,k},Τ)\)はボーズアインシュタイン分布です。

フォノン特性の計算においてはフリーソフトのALAMODEを使用しました[1]。ALAMODEは原子間力定数を推定するalmと、フォノン分散や熱伝導率などフォノン特性を計算するanphonという二つのプログラムから構成されており、almは格子点からの変位(\(U\))とその時の力(\(F\))のセットから原子間力定数(\(Φ\))を推定します。

以下では、ダイアモンド構造のシリコンの計算結果について示します。計算には近年注目を集めている汎用機械学習ポテンシャル[2]をベースに、JSOLでシリコンにファインチューニングしたポテンシャルを用いました。データセットとしてはBartokらのものを使用しました。[3]

計算に使用したモデルを図1に示します。3×3×3スーパーセル(216原子)のシリコン結晶を用いました。図2にフォノン分散の結果とフォノン状態密度を示しました。フォノン分散関係は実験値と良い一致が確認されました。また、図3には熱伝導率の温度依存性を示しました。こちらもフォノン分散関係同様、非常に良い一致を示しています。さらに、平均自由工程と周波数に対する累積熱伝導率を示しました。累積熱伝導率とは、例えば周波数なら特定の周波数以下のフォノンの寄与のみを考慮した熱伝導率のことです。これらの解析から、どの周波数のフォノンがより熱を運んでいるのかがわかります。例えば、シリコンの場合は低周波数の寄与が非常に大きいことがわかります。

材料の熱伝導について解析する手法は他にもRNEMD法に基づくものもあります。機械学習ポテンシャルを利用した材料特性の解析にご興味がありましたらお問い合わせください。

図1. 計算で用いたシリコン3×3×3のスーパーセル図1. 計算で用いたシリコン3×3×3のスーパーセル

図2. (左) フォノン分散関係の実験値[4]との比較および (右) 計算されたフォノン状態密度図2. (左) フォノン分散関係の実験値[4]との比較および (右) 計算されたフォノン状態密度

図3. 図3. 図3. (左)熱伝導率の実験値[5]との比較, (中)平均自由行程に関する累積熱伝導率, (右)フォノン周波数に関する累積熱伝導率図3. (左)熱伝導率の実験値[5]との比較, (中)平均自由行程に関する累積熱伝導率,
(右)フォノン周波数に関する累積熱伝導率

*参考文献
  • [1] Tadano, T., Gohda, Y., & Tsuneyuki, S. (2014). Anharmonic force constants extracted from first-principles molecular dynamics: applications to heat transfer simulations. Journal of Physics Condensed Matter, 26(22), 225402.
  • [2] Batatia, I., Kovacs, D. P., Simm, G. N. C., Ortner, C., & Csanyi, G. (2022, October 31). MACE: Higher order equivariant message passing neural networks for fast and accurate force fields. OpenReview.
  • [3] Bartók, A. P., Payne, M. C., Kondor, R., & Csányi, G. (2010). Gaussian Approximation Potentials: The Accuracy of Quantum Mechanics, without the Electrons. Physical Review Letters, 104(13).
  • [4] Kulda, J., Strauch, D., Pavone, P., & Ishii, Y. (1994). Inelastic-neutron-scattering study of phonon eigenvectors and frequencies in Si. Physical Review. B, Condensed Matter, 50(18), 13347-13354.
  • [5] Inyushkin, A. V., Taldenkov, A. N., Gibin, A. M., Gusev, A. V., & Pohl, H. (2004). On the isotope effect in thermal conductivity of silicon. Physica Status Solidi. C, Conferences and Critical Reviews/Physica Status Solidi. C, Current Topics in Solid State Physics, 1(11), 2995-2998.

事例一覧

  • ※記載されている製品およびサービスの名称は、それぞれの所有者の商標または登録商標です。

*CONTACT

お問い合わせ

※ お問い合わせページへアクセスできない場合

以下のアドレス宛にメールでお問い合わせください

hg-cae-info@s1.jsol.co.jp

ページトップへ